親父が苦い顔でそう言い出したのは昨年12月の中頃だった。
てっきり抗癌剤の副作用かと思っていた。
間もなく手もむくみ、ひどく調子が悪くなった。
そして元旦に亡くなった。
あのむくみは「浮腫み」つまり浮腫だったのだ。
末期症状として浮腫が出ることは知識として知っていた。けれどわからなかった。
認めたくなかったわけではなく本当にわからなかった。
そんなものだ。大事なことは後になって気づく。
「なんか指がむくむ・・・」
かみさんが何気なく言い出したのは今年4月の終わり頃だった。
その数日前には目の周りが腫れぼったくなっていたので「顔パンパンじゃん」と笑ってしまった
そしたら肩口に平手打ち&返す刀で逆水平チョップを食らった。
二人で夜更かししたせいかと思っていた。
そうじゃない。
このむくみは、お産が近づいたことの合図なのだ。
そういえば少し前に本で読んでいた。そうだ間違いない。
今回は、もちろんそうだと信じたくて思い込んだ。
本当かどうかはわからなかった。
そんなものだ。いいことについては都合のいいように思い込もうとする。
でも今回は本当なのだ。

昨日、我が家に新しい命がやってきました。
珠のような男の子。
昔の人は良いことを言った。小さくて、弱くて、でもまばゆいくらい愛おしい乳飲み子は「珠」としか言いようがない。
病院から帰宅し、仏前にて報告。
去年の暮れ、モルヒネで意識が朦朧とする父に「男の子だよ」と伝えたら、驚いたようなおどけたような顔をした。
あの時の表情が忘れられない。
むくみは時として悲しさを、時として幸いを呼ぶ。
なんてね。
かみさん、ありがとう。
そして我が子よ、倅よ、父ちゃんが守ってやる。
大きく育て。大きく育て。
*追伸
かといって名前を「椋実」とかにしたりはしません。
念のため。